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Point of view
smk-X対談企画第2弾
「企業の存在価値、モノ作りを根本から見つめ直す時代へ。」

世界に通用する日本発のモノ作りを目指す「プロジェクトsmk-X」。

第2回目の対談ゲストは、国・地域・企業などの未来構想、ブランディングに数多く携わるMASAMI DESIGN代表・髙橋正実。「社会問題をデザインで解決する」という考え方は今でこそ広まってきているものの、20年以上前からこのコンセプトを提唱し、幅広い分野でプロジェクトを行なってきた先駆者的存在のデザイナーの一人。世界的部品メーカー・SMK株式会社のsmk-Xプロジェクトディレクター・原哲雄と、「モノ作りの未来」について語ってもらった。

 

モノが売れない時代。今こそ、根本を見つめ直す

 時代感が大きく変わったなと思います。それは社会全体、企業、若者についてもです。我々世代は次から次へとワクワクする新しい物が世に出てくる時代でしたが、今はあらゆるものが行き届き、これで良かったんだっけ?と全体を見直す時期に来ているなと。

髙橋 本当にそうですね。自然破壊や脱炭素といった社会課題なども表面化したことで、社会に対してどうするかを問われています。大企業をはじめ、多くの方の意識がそこに向いてきていますが、特に今の若い子たちは、社会のためにという意識が高い。「社会の問題解決のためのデザイン」という授業を母校含め20年ほどやっていますが、年々レベルが高くなっていると感じています。

 便利が当たり前の世界に生まれたからこそ感じれることで、社会の変えなくちゃいけないところがより見えるのかもしれないですね。この時代の移り変わりのスピードについていけていない企業は時代に合わなくなっていて、会社の在り方や目的、モノ作りの在り方を見直さないといけない時なんでしょうね。その中で、日本のメーカーは元気がないなと。時代に合わせて変われていないのが原因ではないかと思っています。髙橋さんはプロダクト自体のデザインだけでなく、企業のブランディングなどもされていますが、昔と今でクライアントの要望というのは変わってきていますか?

髙橋 そうですね。以前が「グラスのデザインをどうするか」だったとしたら、今は「なぜこの会社でグラスを作るのか、どうグラスを作るのか」という本質的なブランディングストーリー作りを求められる感じです。考え方の見直しや、企業全体の在り方を考えたり、最高上位概念を作ったり。それを社内で共有できるようにインナーブランディングといったことまで、幅広くやっています。会社を立ち上げて23年になりますが、もともと“社会のために”と誕生させた会社ですが、今の時代により合う気がしています。

未来年表という考え方

 最終的にクライアントが髙橋さんに求めるゴールはどこにあるんでしょう?

髙橋 企業の目的を作り、それを達成するための道筋を作ることです。それには、私が考案した「未来年表」という方法を使っています。未来をどこに設定するかは、1つのプロジェクトだと数年後のものもありますし、企業がずっと在り続ける姿を描くのであれば、永久にということにもなりますが、私は100年という単位で考えることを勧めています。

 2050年まででも難しそうです。10年後この会社にいないかも、100年後には死んでるよ、といった話にもなりそうですね…(笑)。

髙橋 確かにあります(笑)。でも、これは社会として考えた時に未来から逆算していくと、一人ひとりの立場や企業の役割が見えてくるというものなんです。まず社長や社員の話を聞いて、その会社の歴史とこうなるといいという未来をつなげてストーリーを作ります。課題や問題点、社員の要望、社会問題が整理されると、どの時点で何をやるべきかが見えてくるんです。世界が今打ち立てている計画、例えばパリ協定に向かって動いていくとしたらどうなるか、という点を入れ込むこともあります。広く想像して考え具体的に落とし込んでいく…それが未来年表の醍醐味なんです。

 なるほど。未来年表の作り方は、技術ベースで作ることもあるだろうし、社会がこう変化するだろうという作り方もあるだろうし、例えば脱炭素実質ゼロ目標が2050年だからそこから逆算すると、という社会課題からの作り方もあるだろうし。さらには、人の幸せの定義の仕方によってもあるかもしれないですね。2050年には人の幸せの価値観はこうなるだろうから、そこから逆算すると何が必要だよね、という。そんな年表の作り方もありかもしれない。新しい技術は使い方次第で、便利=幸せではないですからね。便利さだけの追求ではなく、どう人を幸せに出来るかまで踏み込んで未来年表作りが出来るといいですね。

髙橋 仰る通りで、今最先端の企業からそういった依頼がきています。豊橋技術科学大学では、ソサエティ5.0を構築していくためのブランディングやそれをどう実行していくか、技術科学の目的とは、といったことを考え落とし込む仕事を行っています。国は意外と早くから動いていて、関わった仕事で言えば農業白書から農業の未来像を描いたり。富士通では最高上位概念、持続可能な社会を目指して社内の方達がどう実際に実行していくかという未来年表を入れた実行への道筋を役員の方々と共に作りました。そうすると、役割とすべきことが明確になり、一人一人が自分で考え行動していけるようになる。そうやって共通の未来像を持つことが、一番早い方法なのかなと思っています。


ハッピーの点で繋がるモノ作り

 未来年表を使って、実際にどうなったという実例はあるんでしょうか。

髙橋 はい。20年ほど前にある水着メーカーで100年の未来年表を作りました。スクール水着のシェア100%の会社で大手水着メーカーのOEMなどをしている企業です。少子高齢化の時代で、商品がスクール水着ばかりではまずい、けれど自社ブランドとしては認知度が低い…という問題点がありました。そこで、会社内のインナーブランディングと外に向けてのブランディングのために未来年表と問題解決を含むブランドストーリーを作ったんです。アイデアとして、オリンピック選手を育てるというのも良いのではないか、という未来構想を入れました。社員の中には、規模が小さい会社でオリンピック選手を育てるなどできるのだろうか、と不安に思う人もいました。しかしその後、水泳選手がいた学校の先生から社長に話があり、やってみよう!ということになったんです。実際に前回のオリンピックでは同社所属である金藤選手が金メダルを獲得し、その後も水着のアドバイザーをされています。さらに未来構想によって社員からブランドストーリーからのアイデアが自然と出るようにもなったそうです。社会全体が繋がるようにと20年以上前自分が考えた言葉、「ヒト・コト・モノ」「ブランドストーリー」「未来年表」という概念を当時はじめて企業としてそのブランドブックへ入れると、企業のミッションをイメージできる仕組みから、自然とデザインとしてモノを見る判断の目も培われていったそうです。初めは、うちの会社がまさかオリンピック!?という反応でも、未来年表に描いておくことで対応できる思想、体にもなっていくんですよね。イメージできると、その未来もやってくる。

 古い体質の会社だと、「変わらなきゃ」というのは大変なことだけど、イメージの共有で自然とそうなっていく、というのはいいですね。

髙橋 私はモノの作り方も、未来年表の作り方も似ているんですが、みんながハッピーになる内容を作っていくんです。素敵なものを作ろうと思っても売れるモノにはならなくて、それを作る過程のことも考えます。使う人だけじゃなく、それを作るモノづくりの会社もハッピーで、素材も地球上の繋がりもハッピー…全ての点が繋がっているんです。このように社会という視点で考えた時に、自然と売れるものになっていく。

 モノ作りも人も社会も、幸せの点で繋がるっていいですね。もう便利だけを追求する時代ではないし、社会課題を解決するにしても、それによって人がどう幸せになるのかという視点で向き合わないとなかなか受け入れてもらえないと思います。


これからの、その先のCX

 そうそう、今アメリカで流行っている「Peloton(ペロトン)」という会社があって。家の中でトレーニングするエクササイズバイクで30〜40万円くらいのものなんですが、興味深いのが、売って終わりという形ではないこと。世界中でそのマシンを買ってトレーニングしている人たちとコミュニケーションしたり、競争したり、自分が漕いだ様々なデータを他の人と比較できたりする。カリスマ的なトレーナーとのトレーニングも人気のようです。商品を届けてくれるのも自社の配達員たちで、まずそこのエクスペリエンスから他と全然違うんですって。全てにおいて会社へのロイヤルティが生まれるような仕組みになっていて、解約率は約1%と恐ろしく低いらしいです。

髙橋 色々なストーリー含めてファンを作り、信頼を作る。アメリカの会社はそういったトータルの仕組みを作るのが上手いですよね。

 そう、何十万の機器の購入だけでなく、毎月何千円かのサブスクリプションも払ってもらうんですから。時価総額もものすごく上がっている。これからはそういう風に、モノを売るだけでなく、買った後も使い続けて満足してもらうための仕組みや仕掛けも含めてやらないと。モノを作って売っておしまい、という時代じゃないですからね。

髙橋 その通りですね。smk-Xの「X」と付くからには、色々なモノやコトを掛け合わせて、新しいことをやらないとですね。単純にそのモノだけでは解決できないこと、既存のやり方では対応できないことを解決していくような。私としては、世界中に拠点を置く日本のモノ作りを支える企業として、もっと多くの方に知っていただきたい企業です。

 ありがとうございます(笑)。smk-Xでやりたい、やらなくてはいけないと思っているのが、単に新しい商品をクライアントと一緒に作り上げるということよりも、その先の顧客満足です。CXの質やプロダクトを作る会社へのロイヤルティをどう高めていくか。そういうことを含めてやっていかないと意味がない。そうじゃないと、結局スペック競争や価格競争になって消費されて終わりなので。この会社のモノを買い続けたいと思ってもらえるような顧客体験は、ハードだけではなく、サービスや例えばカスタマーセンターの対応であったりとか、全て含めてなんですよね。

髙橋 そうですね。デザイナーとしての視点から言うと、何かただ美しいものを作りたいということではなくて。常にモノと人の関係、行為と人の関係を考えているので、技術だけでないこれからの時代に求められているものに柔軟に対応し先に道を作っていくことが必要だと考えています。

 結局、髙橋さんも僕らsmk-Xの仕事も直接的なモノ作り領域だけでは完結しない。では、我々が何を追求するかというと、モノを取り巻くビジネス全体をデザインすることによる顧客の満足だと思うんです。smk-Xの強みは、世界中のセットメーカーと100年近くモノ作りに向き合ってきたノウハウ。そして最先端の尖った技術を持つ世界中のスタートアップ企業から量産実現性があり、且つコスト競争力を有するイノーベーションを見極める目利き力。そして髙橋正実さんの様なクリエイティブパートナーとこれらを掛け合わせることで、クライアントの未来の商品をプロデュースしていけるところです。そこで挑戦する新しいプロジェクトの満足度を最大限高めていくことで、企業自体も時代に合わせて変化して、結果的に日本のメーカーが元気を取り戻し世界で輝くようになればいいと思います。

髙橋 いいですね。今までの経験や知識、歴史を生かしたものだからこそ、関わる人たちもなぜこの会社からなのか、ということを腹落ちして動けるのだと思います。今まで培ってきたノウハウや信頼のネットワークがあってこそ、新たな試みの掛け合わせが素晴らしいものになると思います。


場所のご協力:「割烹 美家古」
今回の対談場所は、髙橋さんが生まれ育ったすぐ近く、向島の「割烹 美家古」。現在もお子さんの七五三や法事などで利用されているとか。京都、新橋、赤坂など料亭が激減する中、日本最大の花柳界として料亭文化を今に伝える向島の料亭の一つで、江戸文化に造詣の深い髙橋さんお勧めの場所。見応えある昭和初期の見事な数寄屋造りは国の文化財としても登録されている。「若い世代にも知ってもらい、料亭文化が繋がっていってほしい」と今回ご紹介いただいた。